陸 晨思(リク シンシ)
中国出身/2024年度奨学生
上智大学 文学研究科 博士後期課程
歌舞伎教室感想
歌舞伎を劇場で観るのは、今回は3回目になる。義経千本桜の話は、今までアニメや演ミュージカル作品で何回か観たことあるが、原作の歌舞伎は初めてなので、演目を知った時点から期待感が湧き上がった。
今回の「川連法眼館の場」のストーリーは染井吉野満開の奈良を舞台にしていることが知り、どんな舞台セットが出されるかなと、幕間からずっとワクワクしていた。その期待は裏切られなかった。山吹色基調の舞台の上で、精巧に立てられた河連法眼の館、そして天井からぶら下がる薄いピンク色の桜。古都奈良の情緒が開幕の一瞬で満ち溢れた。
舞台セットがくれた感動はそれだけではなかった。静御前が初音の鼓をただいて、狐が化した忠信を呼び出すときに、なんと狐は階段の中から登場した。そのシーンに拍手しなければいられなかった。一挙手一投足のタイミングを計って芝居を凝らす役者たちに、そしてこの舞台の背後にいる裏方のスタッフたちに。
娯楽の選択肢が技術の進歩につれて増えているとはいえ、このように現場でしか味わえない感動は、演劇の代替不可能の醍醐味ではないかと、今回の観劇を通じて改めて考えた。