
松宮 陽輔
2023~2025年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 医学部
コミュニティー作り(Town & Gown)
オックスフォードと言えば、大学が有名ですが、現在街の人口の約16万人の内、学生(オックスフォード大学とブルックス大学)は2割程度(約3万5千人)を占めています。特に学部やカレッジで過ごしていると、自然に大学関係者以外の方と触れ合う機会が少ないです。
現在住んでいる場所はオックスフォードの北西にある、ウルバコート(Wolvercote)という地域です。市内まで自転車で30分、車やバスで15分ほど掛かります。近所には大学関係者も多いですが、営業者、退職者、無職や色んな方が住んでいます。数ヶ月に一度、地域の住民が集まる対話集会が開催され、村長も参加して、環境、予算、イベントや多数のテーマに関して議論します。一年ほど前に課題としてあがったのが、地域のポイ捨て問題でした。道路沿い、公園や公共地域のゴミが多く、どの様に解決できるかという内容でした。副村長がちょうど日本旅行から戻られて、私にむかって「日本はなぜゴミが少ないのか?」と聞かれました。突然の質問で少々ビックリしましたが、咄嗟に「小さい頃からゴミはきちんと捨てるようにしごかれ、自宅や職場でゴミを見つけた場合は、自分で拾って捨てる習慣がある」と答えた覚えがあります。続けて「地域のポイ捨ての解決策に関して意見があるか?」と聞かれて、その場で思い出したのが、日本に住んでいた当時、家族で石垣島に旅行に行った時に参加したビーチクリーンでした。
2019年、石垣島でのビーチクリーン
ポイ捨てを止める事は難しいが、コミュニティーとしてゴミを拾って、綺麗にする事はできるのではないかと提案して、気づかないうちにボランティアで地域のゴミ拾いの担当になっていました。有難い事に、オックスフォードにはOxCleanと言うゴミ拾いをサポートして下さる集団が存在していて、そこに問い合わせたところ、ゴミ拾い道具を無料で貸し出して下さいました。最初は毎週ゴミ拾いを開催しましたが、最近はゴミの量も少なくなり、月に2回ほど開催しています。道具は誰でも自由な時間に使えるように、公共施設に保管されています。ゴミ拾いには平均8-10人集まり、半分ほどは子供です。周辺を歩き周りながら、近所からお礼の言葉が多く、時々ケーキを配ってくださる方もいます。ほぼ毎回参加して下さる教員の方は、ゴミ拾いを通して、子供たちだけでなく、地域の住民もゴミの廃棄に関しては、もっと意識するようになったと言って下さいました。長男は学校の宿題として、ゴミ拾いのポスターを作成して、近所のカフェに表示されています。
長男が作成したゴミ拾いポスター(QRコードは不使用)
地域では他のボランティア活動も多く、近所のカフェもボランティアによって運営されています。人件費が掛からない分、値段も低くて、正直コーヒー(£2)の味はチェーン店よりずっと美味しいです(ボランティアの方が科学者だからでしょうか)!カフェは好きな時に人が集められる場所で、コミュニティーの中心となっています。
大学では大学関係者同士だけの接触が多いですが、時々大学外の方との接触も大事だと感じます。オックスフォードやケンブリッジのように、大学関係者が多い街では「Town & Gown」という表現があります。これは差別よりも、一緒に暮らすという意味があると感じます。オックスフォードは大学がなければ、これほど有名ではなく、今の様に存在しませんが、一般住民がいなければ、日常の生活ができません。大学院卒業後、世界のどこに住むかにも関わらず、近所やコミュニティーは大切にしたいと感じます。
貴財団のご支援のお陰で、家族でこの様な充実した生活を送らせていただけて、心より感謝しております。今年の9月に博士論文を提出する予定ですが、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。