奨学生 レポート

外国人奨学生の顔写真

小原 健人
2024~2027年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 政治国際関係学部

1.半年の振り返り

 坂口国際育英奨学財団の奨学生としてオックスフォード大学の政治学・国際関係論研究科(DPIR)の博士課程に進学して半年が過ぎました。この場をお借りしてこの半年のオックスフォード博士課程学生としての活動を振り返りたいと思います。

1.1 博論研究計画

 指導教員の先生と何度も話し合い、正式な博論研究の計画がようやく形になってきました。博士課程へ出願した際の研究計画も個人的には思い入れの強いテーマではありましたが、博士課程修了後の進路を見越してより質の高い研究を目指すように先生に励まされ、アドバイスをいただきながら自分としても納得のいくテーマに仕上がりつつあると思います。博論研究の中心となるテーマは「社会的少数派の代表」です。現在、オックスフォード大学ではDPIRが中心となって民主主義レジリエンス研究センターを立ち上げるプロジェクトが進んでおり、自分の博論研究では民主主義国家において従来政治の場にあまり代表されてこなかった人々の代表を促すことがどのように民主主義の再起・回復につながるかを検証することでこのセンターの研究に貢献しようと考えています。

 政治学(より広く社会科学)において重要とされるテーマの中から、自分の関心のあるテーマで博論研究の規模感にあったテーマかつ因果推論などの政治学の厳密なメソドロジーを適用しうるテーマを選定するのは時間がかかりましたが、先生の熱心なご指導と坂口財団の手厚いご支援のおかげで博論研究の本格的な1歩めを踏み出すことができました。先生のご指導を通して比較政治学において特に質の高い研究を目指す際に、どのように確実な研究計画を立てられるか、研究計画を立てる際にどのような点を事前に見越しておく必要があるかなど、研究者のトレーニングに欠かせないことをより具体的に学ぶことができたように思います。これを糧に今後も自分の研究に邁進していきたいと思います。  自分の博論研究ではまず、どのように政治において社会的少数派の代表を促進できるかという問いから出発しようと考えています。これは国会や地方議会において女性議員の占める割合が先進国の中で特に低い日本にも重要な示唆のあるテーマになります。現在、ドイツの連邦議会・州議会における社会的少数派の議員を増やす支援を行っているNGO・Brand New Bundestagとコラボしながら、市民社会のアクターがどのように社会的少数派の人々の代表に貢献できるか政治学の視点から評価する計画です。またこれに関連して、博論研究のスピンオフとして日本の統一地方選のデータを用いて選挙区定数と女性の代表の関連を検証するというペーパーにも取り組んでいます。こちらは先日、研究科内部の研究セミナーで進捗を発表し、研究科の同期や先輩から建設的なコメントをもらうことができました。このペーパーは来たる6 月にスペインのマドリードで行われるヨーロッパの主要な政治学会、ヨーロッパ政治学会(EPSA)での口頭発表にも採択されたので、もらったコメントを元に推敲を重ね、学会発表に備えたいと思います。

1.2 博論以外の研究活動

 博論研究以外に現在4本のペーパー(先述した日本の地方選に関するペーパーも含みます)に取り組んでいます。そのうちの1本はDPIRの修士課程在籍時代に修論として書いたものをジャーナル向けに書き直したものになります。テーマは日英独における議会改革で、政府が議会の過半数をコントロールする場合が多い議院内閣制において政府の議会に対する答責性(アカウンタビリティ)を強化する議会内の制度改革はいつ、どのように行われるかについて定量的に分析した研究です。修士論文は本文だけで20,000ワード以上の論文ですが、政治学のジャーナル向けの論文では5,000~10,000ワード以内という制限が課されるのが一般的で、さらに定量的な手法を用いた論文では分析の再現性を担保するため、論文の分析で使用したデータや分析ファイルをジャーナルのデータ・リポジトリに納めて公開することが原則として求められます。「本業」の博論研究を進めながら論文の修正とデータファイルの整理を行うのは、想像以上に時間がかかりましたが、こちらも研究科同期たちからフィードバックをもらいつつ修正・推敲を重ね、ようやくジャーナルに提出できる形に仕上げることができました。また、つい最近DPIRに2年間の客員研究員としていらした元国会議員の藤田幸久さんとも議会制度に関して議論する機会があり、藤田さんの長年の実務経験に裏打ちされた示唆を得ることもできました。論文の草稿を近日中にジャーナルに提出しようと考えています。 指導教員の先生の熱心なご指導だけでなく、同期や先輩など研究科内の「同僚」たちと助け合い、お互いの研究にコメントし合いながら切磋琢磨するという研究文化の土壌が存在していることもDPIRの強みだと改めて感じさせられます。こうした環境の恩恵を最大限生かしつつ、今後も自分の研究に励んでいきたいと思います。

DPIRの博士課程1年生歓迎ディナー

DPIRの博士課程1年生歓迎ディナー



1.3 課外活動

 博論研究と4本のサイド・プロジェクトを同時並行で進めているとそれ以外の活動を熱心に行うことはなかなか難しいですが、今年から同じく坂口財団の奨学生である藤田綾さんからオックスフォードの日本人院生コミュニティである青藍会の会長職を引き継ぎ、先日、今年最初のパブ会を開きました。修士課程、博士課程、一部研究員や卒業生の方にもご参加いただき、30名前後の方がいらっしゃる盛況な会になりました。オックスフォードの日本人院生といっても文理、修博、また社会人留学の方とそうでない方、いろんな方達がいらっしゃいますが、そうした垣根を超えてオックスフォードで活躍されている方達が少しでもアットホームに感じられるコミュニティをつくっていけるように幹事として貢献していこうと思っています。

青藍会

青藍会



2.坂口財団の奨学金で成し得たこと

 坂口財団の奨学金をいただいて成し得たことはなんといっても、熱心に指導してくださる指導教員の先生の下で研究できるDPIRの博士課程に進学できたことです。授業や試験のある修士課程と違い、博士課程は言うまでもなく約3年間、ほぼ毎日博論研究やその他の研究に向き合うことになるので、テーマが近いだけでなく博論指導の質やお人柄においても納得のいく先生の下につくことがこの上なく重要だとこの半年で気付かされました。オックスフォード大学という有数の大学で、この上ない環境で博論研究をできることを可能にしてくださる坂口財団にとても感謝しています。

 2月半ばは最高気温が摂氏0度前後の寒い日もありましたが、冬休み期間だった12月と比べると日も長くなり、太陽が出ている日も少しずつ増えてきました。博論研究計画が固まりつつある自分の次の大きなステップは、その博論研究計画の正式な審査であるトランスファー(transfer of status)という関門になります。こちらは博論研究の正式なプロポーザルとして博論の下書きを一部提出し、指導教員以外の先生2名に口頭試問を含めて審査していただくもので、通常博士課程に入学して1年後に行います。普段博論指導をしていただくことがない先生方からいいフィードバックをもらえるように入念に準備を進めていきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。