
劉 俊薇(リュウ シュンビ)
中国出身/2024年度奨学生
上智大学 地球環境学研究科 博士前期課程
年度末レポート
① 日本に来たことで見えてきたこと
日本に来て8年が経ちました。この8年間で、日本社会の美しさや強さを実感する一方で、課題や違和感を覚えることもありました。最初は言葉の壁や文化の違いに戸惑いましたが、日本の人々と関わり、働き、学ぶ中で、自分の視点が大きく変わったと感じています。異国での生活は、新しい価値観を吸収し、自分を成長させる貴重な経験となりました。ここでは、日本での生活を通じて得た気づきと、より良い関係を築くための考えを述べたいと思います。
日本に来て最初に驚いたのは、人々の礼儀正しさや秩序意識の高さです。電車の中では静かに過ごし、店では「いらっしゃいませ」と明るく迎えられ、職場ではチームワークが重視されています。これらの習慣には、日本人が長い年月をかけて育んできた「和の精神」が根付いていると感じます。また、「おもてなし」の文化にも感動しました。私は居酒屋でアルバイトをした経験がありますが、お客様一人ひとりに丁寧に接し、細やかな気配りを求められました。最初は戸惑いましたが、次第にこの文化に慣れ、お客様との会話を楽しむようになりました。このような心遣いこそが、日本を訪れる外国人を魅了し、「また来たい」と思わせる要因の一つなのだと実感しました。
一方で、日本社会には「見えない壁」が存在することにも気づきました。特に外国人にとって、表面的には歓迎されているようでも、深い関係を築くのが難しいことがあります。例えば、職場や学校では親切に接してもらえるものの、プライベートな関係に発展することは少なく、「本当の友人」を作るには時間がかかることが多いのです。また、日本人の間でも「察する文化」が強いため、自分の意見を積極的に表現するのが難しい場面があります。私が大学のディスカッション授業に参加した際、日本人学生の多くが自分の意見をはっきり言わず、相手の発言を否定しないよう慎重に話していたのが印象的でした。私は「意見を交わすことが学びになる」と考えますが、日本では「空気を読むこと」が重視されるため、議論が発展しにくいこともあると感じました。また、私は日中オンライン文化交流イベントを企画・運営した経験があります。その際、日本人の参加者が「中国の人はよく意見を言う」と驚き、中国人の参加者が「日本人はなかなか本音を話さない」と感じていたことが興味深かったです。このように、文化の違いによってコミュニケーションのスタイルが異なるため、お互いを理解し合う努力が必要だと改めて思いました。
より良い関係を築くためには、以下の三つのことが重要だと考えます。第一に、率直なコミュニケーションを増やすこと。日本人は相手の気持ちを察することを大切にしますが、外国人にとっては「言葉にしないと伝わらない」と感じることが多い。そのため、お互いに遠慮せず、自分の考えを率直に伝え合うことが重要です。私自身、居酒屋のアルバイトで店長や同僚と積極的に話すことで信頼関係を築けた経験があり、どんな関係でもまずは「話すこと」が大切だと実感しました。
第二に、多様性を受け入れる環境を整えること。日本は「和を大切にする文化」があるため、異なる意見や価値観が受け入れられにくいことがあります。しかし、グローバル化が進む今、多様な背景を持つ人々と共に生きる力が求められています。例えば、大学では異文化ディスカッションの機会を増やし、企業では外国人社員が意見を言いやすい環境を作ることが大切です。私が関わったオンライン文化交流イベントでは、お互いの違いを理解しようとする姿勢が交流の成功につながりました。こうした機会を増やせば、異文化理解がより深まると考えます。
第三に、柔軟な思考を持つこと。日本社会はルールや伝統を重視する傾向が強いですが、新しい価値観や技術を受け入れることも重要です。例えば、大学でのChatGPTの活用についての議論では、多くの日本人学生が「ルールだから禁止すべき」と考えていましたが、私は「新しい技術をどう活用すべきか」を考えるべきだと思っていました。これからの社会では、ただ伝統を守るだけでなく、「より良い方法」を柔軟に模索することが求められるのではないかと思います。
日本に来た当初、私は「この国でうまくやっていけるだろうか」と不安でした。しかし、今では「この国で何ができるだろう」と前向きに考えられるようになりました。この経験を通じて、日本社会の良さを尊重しつつ、お互いをより深く理解し合うことの大切さを実感しています。
② 奨学金によって果たせたこと
坂口国際財団から奨学金をいただいたことは、私の学業における最大の転機でした。この奨学金は、学問への集中を可能にし、特に修士論文の完成とインタビュー調査に専念するための大きな支えとなりました。学業達成と自己成長の両面で、私はこの機会を最大限に活用することができました。
修士論文の執筆において、坂口国際財団の奨学金は私に貴重な時間と資源を提供してくれました。修士論文は専門的な調査と深い分析を要するため、時間と労力を惜しみなく投じる必要があります。奨学金を受けたことで、学費や研究に必要な経済的な負担が軽減され、私は論文に全力で取り組むことができました。特に、インタビュー調査を実施するために多くの時間を割き、対象者との接触やデータ収集に集中することができたのは、この支援があったからこそです。経済的な心配がなくなり、調査と執筆に専念できる環境が整ったことで、私は思う存分研究活動に取り組むことができました。
また、インタビュー調査に関しては、実際のデータ収集が非常に時間のかかる作業であるため、計画的に時間を確保することが重要でした。この奨学金を通じて、必要な資金を手に入れたことで、調査対象者と継続的に連絡を取り、実際にインタビューを行うための移動費も賄うことができました。この経済的支援が、私の研究の質を大いに高め、最終的に修士論文を無事完成させることに繋がりました。
修士論文を完成させたことは、私にとって学問的な成長を意味するだけでなく、自己成長にも大きな影響を与えました。研究活動を通じて、多くの専門的知識を深めただけでなく、調査方法やデータ分析のスキルも大きく向上しました。また、インタビュー調査を通じて、人々とのコミュニケーション能力や問題解決能力が鍛えられ、学問的な枠を超えて、社会人としての成長も感じることができました。このように、坂口国際財団の奨学金は、私の学業の成果を大きく後押ししてくれました。
最後に、坂口国際財団の皆様に心より感謝申し上げます。この奨学金がなければ、修士論文の完成やインタビュー調査の実施は難しかったことでしょう。いただいた支援を無駄にせず、今後も努力を続けていきます。この貴重な機会を与えてくださり、ありがとうございました。
論文の執筆でいつもアドバイスやアイディアをいただいた研究室の仲間たち