奨学生 レポート

外国人奨学生の顔写真

藤田 綾
2022~2024年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 社会介入学部

 オックスフォード大学で博士号を目指し始めて二年が経ちました。前半はこの半期(2024年4月~9月)における研究成果や学術活動について、後半はこの一年注力してきたEquity/Equality, Diversity and Inclusion (EDI)に関する活動と学びについて報告させていただきます。

研究成果や学術活動

 今月博士課程の一つ目のマイルストーンであるTransfer of Statusの書類を提出しました。社会介入政策評価学の場合、この書類では、自分の研究プロジェクトに関する先行研究についてまとめ、論文三本の研究の論理的根拠、目的、研究計画を記すもので、本文だけで約23,000 wordsの長い文章になりました。指導教員と議論し、レビューしてもらっては改善する作業を何度も繰り返し、ようやく形にすることができました。

 また、国際学会にも初めて参加することができました。指導教官と研究科の友人たちおよび所属する研究グループ・国際子育てイニシアティブのチームと共に、スウェーデンのウプサラで開催された国際子ども虐待防止学会(ISPCAN)に出席してきました。論文二本目のウガンダにおける虐待予防を目的とする育児介入の障害のモデレーション分析の研究結果の一部を口頭発表させてもらいました。

国際学会ISPCANでの発表の様子

国際学会ISPCANでの発表の様子

 終始学びの多い学会で、参加できたことに感謝しております。虐待に関する様々なデータ収集、暴力の世代間サイクル、体罰と精神疾患や健康リスク行動の関係、難民の同伴者のいない未成年者や先住民を対象とした実践や研究等など、虐待や暴力について多岐にわたる発表が聞けました。特に、今年の特別テーマは「人道危機における子どもの保護の協力」で、武力紛争、難民・移民、パンデミック、災害や気候変動の文脈における分析や革新的な解決策に関する発表も多く、たくさんインプットとネットワーキングをしてきました。この学会は研究者と実務者のバランスも良く、多くのコラボレーションが生まれそうでした。次回はグローバルサウスや日本含む東アジアからの参加者がもっと増えるとよいと思いました。

国際学会ISPCANにて、研究グループ国際子育てイニシアティブの仲間と

国際学会ISPCANにて、研究グループ国際子育てイニシアティブの仲間と



Equity/Equality, Diversity and Inclusion (EDI) に関する活動と学び

 博士課程の二年目は、研究科のEDIのDPhil学生代表を務めました。研究科にはEDI委員会が設置されていて、EDI担当者、研究科長、コース長、事務局長などと共に、研究科内のEDI推進について取り組んでいます。具体的には、EDI推進計画を策定したり、EDIに関する学生の声を吸い上げてEDI担当者に報告や相談をしたりする役割を担っています。今年度は、推進計画にDPhilの学生の目線で意見し、この研究科がAthena Swan CharterのBronze Awardを受賞することに貢献することができました。このイギリスの憲章は高等教育および研究における男女平等を支援し、変革するための取り組みです。この賞は日本でいえば、女性の活躍促進に関する状況が優良な企業が認定されるえるぼし認定に似た制度と言えるかと思います。

 EDIに関する学生アンケートを行う中で見えてきた主要な課題は、様々な要素が交差して構造的不平等が存在することです。ジェンダー、障害、宗教、イデオロギー、南北格差、難民移民だけでなく、親までの世代が大学に通っておらず自分が初めて四年制大学を卒業する世代である学生 (first-gen student)、子育てをしている学生、母国が戦争・紛争をしている学生、英語がネイティブ言語でない学生など不平等を感じる種になり得る要素は非常に多様であることがわかりました。

 そして、それをどこまでどのように是正するか対策を考えることも難しい課題であるということです。例えば、私の研究科の一コースはOECD諸国を中心とした社会政策比較に関するため、そのコースの教授の出身が西洋諸国に偏っていることもあり、BAME (Black, Asian, and Minority Ethnic) の教授やコース内容における配慮が不足しているのではないかという意見もありました。中には差別的な発言を受けたことがあるという報告もありました。また、学生からは資金面の困難についての意見も多く上げられました―この研究科のDPhilは三年のコースでありながら、現実的には四年かかることも多く、その延長分にかかる資金を担うのは大変である。アルバイトをすることで余計に年数がかかってしまう。工学やライフサイエンスなど民間企業や産業政策と結びつきが強い研究科は民間企業や政府からの奨学金や研究資金が充実しているが、社会科学は資金面の支援が弱い。大学全体でこのような研究科間の不平等さを是正してもらえないか―などと様々な不平等さを感じている学生が多くいます。このように、課題の質も各学生の感じる困難や障壁の深刻さも多様であるため、最終目標どころか、優先順位をつけて一つ一つの対策に関して合意を得るのさえも苦労します。

 この活動を通じて、建設的なEDI推進プロセスを経験することができました。研究科のマネジメントは、挙げられた課題に対して真摯に回答することを重視しています。Town Meetingという、研究科長、事務局長、コース長と学生たちが自由に対談する会議も設けられています。EDI委員会では、学生からの意見を決してなかったことにはせず、一つ一つ透明性を担保しながら対応を考え、苦情の再発防止や問題点に対する対策を建設的に検討しています。

 さらに、この国際的なコミュニティで多様な背景を持つ人が集まる場において人々が何を求めるか、そしてどうしたら居心地がよく、前向きに切磋琢磨し合える環境を作ることができるかを導き出すことができました。学生のアンケートでこの研究科の文化と感謝している点について尋ねたところ、学生は、研究科の教員や学生が温かく、友好的、支援的かつ協力的で、オープンなマインドを持っている人々であると感じていることがわかりました。そして、その多様性に対する理解と敬意が重要であるという結論が浮かび上がってきました。

 また、この役割に就いたこともあり、自分の啓発のためにカレッジが開催するEDIトレーニングやセミナーに何度も参加しました。当大学の中で起こりえる差別、ハラスメントやいじめ、アンコンシャスバイアスや特権意識、マイクロアグレッション、これらの概念やステータスの交差性などを整理しながら、特に英国という多様な国籍や背景を持つ学生・教員が集まる国で、かつ当大学の独自な環境だからこそ起こりえる課題について学びました。私は、常に自分の態度や行動に批判的であり、置かれた環境においてEDIに関して学び続けていこうと決心しました。

 日本人で、諸制約をクリアして当大学の博士課程に進学でき、研究を続けられる学生は決して多くなく、中でも社会科学の学生、女性の学生はそれぞれ片手で数えられるほどです。私も貴財団の支援なくして、ここまで研究を続けることはできませんでした。これまで二年間の博士課程の学業を支えてくださった貴財団およびご支援者の皆様に心より御礼申し上げます。三年目は一層研究に邁進してまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

オックスフォード日本人院生会の青藍会とケンブリッジの日本人院生会の十色会の交流会

オックスフォード日本人院生会の青藍会とケンブリッジの日本人院生会の十色会の交流会の様子。青藍会の会長を務めており、コロナ以降五年ぶりに交流会を復活させました。

研究科のDPhil女性学生たちが結婚お祝いをしてくれました。

研究科のDPhil女性学生たちが結婚お祝いをしてくれました。