奨学生 レポート

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波多野 綾子
2022~2024年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 法学部

国際法と模擬裁判

 私は現在、坂口国際財団のご支援をいただきながら、オックスフォード大学法学部博士課程において国際法を専攻しております。本稿では、2024年に参加した2つの国際(人権)法に関する模擬裁判についてご報告させていただきます。

 2024年3月、私はオックスフォードで開催されたMonroe E Price Media Law Moot Court Competition(メディア法模擬裁判)に、開催者兼裁判官(Judge)として参加しました。この大会は、表現の自由、プライバシー、メディアとインターネットに関連する法律問題に焦点を当てた国際的な模擬裁判です。特に、デジタル時代における表現の自由と人権とのバランスが重視され、学生たちは国際法に基づいて複雑な法的問題を議論します。世界中から参加するチームは、最初に各国や地域で予選を行い、上位チームがオックスフォードの国際ラウンドに進出します。

メディア法模擬裁判@オックスフォード。2024年3月

メディア法模擬裁判@オックスフォード。2024年3月

 この大会の特徴は、グローバルに影響を与える最新のメディアや技術に関連した問題が取り上げられる点です。例えば、プライバシー権と国家安全保障、データ保護と表現の自由のバランス、SNS上の誹謗中傷に対する規制の是非といった、現代社会の重要な法的課題が議論されます。模擬裁判の形式では、各チームが申立側と被告側に分かれ、特定のケースに基づいて法的主張を行い、裁判官役の審査員から評価を受けます。ここでは、法的知識に加えて、論理的思考力や説得力、迅速な反論対応力、そしてチームワークが求められます。

 初めて裁判官として同模擬裁判に参加した私は非常に緊張しましたが、各弁論者がいかに問題を解釈し、異なる論点に焦点を当てるかの違いや議論に引き込まれていきました。法的根拠の一貫性や判例との関連性に注視しつつ、裁判官の難しい質問や介入にどのように冷静に対応するかといった臨機応変な対応にも着目していました。現代のグローバル社会では、表現の自由と国家安全保障の両方をどう確保するかが極めてデリケートな課題であり、原告(国家の人権侵害を訴える側)と国家(訴えられている側)の双方の主張や法解釈を聞きながら、国際法の重要性を再認識しました。チームの議論が拮抗したときの評価は非常に困難でしたが、同時に裁判官としての大きなやりがいを感じました。法の適用や議論の仕方を判断する立場に立ったことで、国際法への理解が一層深まりました。

 この模擬裁判での経験を通じ、2024年7月にはジュネーブで開催されたNelson Mandela World Human Rights Moot Court Competition(ネルソン・マンデラ国際人権法模擬裁判)にも、裁判官として参加する機会を得ました。この大会は国際人権法に特化しており、世界中から学生が集まり、国際人権問題について議論を深めます。主催は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)と南アフリカのプレトリア大学人権センターで、国連人権条約や実際の国際人権ケースを基に設計された問題に取り組む点が特徴です。

ネルソン・マンデラ国際人権法模擬裁判@ジュネーブにて他のJudge たちと。素晴らしい仲間と出会えました。2024年7月

ネルソン・マンデラ国際人権法模擬裁判@ジュネーブにて他のJudge たちと。素晴らしい仲間と出会えました。2024年7月

 模擬裁判では、マイノリティの権利、ジェンダー差別、人種差別など、国際人権法における重要なテーマが議論されました。欧州人権条約やアフリカ人権憲章の条文や判例の豊富な知識も必要とされる課題でした。裁判官として、各チームの議論の正確性や理論の整合性、さらに倫理的側面にも注意を払いながら、弁論者たちの熱心な議論に耳を傾け、評価を行いました。
 これらの模擬裁判への参加を通じて、私は国際法への情熱を改めて確認しました。国際的な法的枠組みがどのように人権を保護し、またそれが直面する課題について考えることは非常に刺激的であり、今後のキャリアにおいても重要な経験となりました。何より異なる法体系や文化背景を持つ参加者との素晴らしい交流を通じ、国際法の多様性と共通性を再確認し、国際法の持つ力と限界を理解する機会となりました。

 今回の2つの国際人権に関する模擬裁判では、日本の大学からのチームに会うことはできませんでしたが、日本でもこのような特に国際人権法模擬裁判をより積極的に取り入れることで、学生の国際人権法の理解や国際的な交流に大きな効果があると感じました。(ちなみに、8月に参加した外務省主催東京国際法セミナーでは、アジア諸国の学生を対象した国際法模擬裁判「アジアカップ」の準決勝戦及び決勝戦を見学することができました。優勝チームはシンガポール国立大学でした。)
 最後に、オックスフォードで学んでいなければこのような人のつながりや貴重な機会は得られなかったと思います。このような貴重な機会を与えてくださった坂口国際財団とその支援者の皆様に心より感謝申し上げます。も国際法と人権法の発展に微力ながら貢献するべく努力を続けてまいりたいと思います。

ジュネーブの後、日本に戻り、外務省主催東京国際法セミナーを修了しました。2024年8月

ジュネーブの後、日本に戻り、外務省主催東京国際法セミナーを修了しました。2024年8月