奨学生 レポート

日本人奨学生の顔写真

髙橋 誠司郎
2022年度~2024年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 社会科学部

レポート/エッセイ

 博士課程一年目を終え、七月上旬に英国オックスフォードから日本へフィールド調査のために引越して三ヶ月近く経ちます。まず東京で一ヶ月半過ごし、その間に坂口財団の事務局へご挨拶に伺わせていただき、オックスフォード大学のクラスメイトを含む友人と会い、研究に関する取材を行いました。台風6号が去った後、現在住んでいる沖縄県沖縄市へ移りました。先月と今月は旧盆やFIBAバスケットボールワールドカップ、四年ぶりのエイサー祭りなどで賑わい、今も暑い日が続いておりますが、中秋の名月も近づいてきており、風が凉しい夜もございます。

 沖縄市に到着してから最初の二週間は民宿に泊まり、とても親切な宿主のお婆様にお世話になりました。民宿はもともと嵐の際に宮古島から来られた方の避難先として、ボランティアで創められたそうです。宿主のお婆様は沖縄戦後高校に通うことができず、五十代から定時制の高校に入学され、推薦で大学へも進学されたそうです。ご家族の建設会社の経理や家事などをこなしながらも、四年間で大学を卒業されたとのことでした。沖縄の研究に役立つのではと、宿主のお婆様の高校時代の恩師の弟様に紹介していただきました。元ハンセン病患者と作家であるこの方からは、沖縄戦中に発症した後、差別を受けながらも出逢いと助けを通して社会と向き合ってきた数々のエピソードのお話を伺わせていただきました。私の曽祖父と祖父の関わっていた救癩協会の活動にもかつて影響を受けられたとのことで、縁を感じました。

 沖縄に着いた翌日の晩には早速教会の聖歌隊のリハーサルに参加しました。この教会は1950年代に日本聖公会からの依頼のもと、米国聖公会によって設立されました。沖縄返還が起きた1972年に沖縄教区は米国聖公会から日本聖公会へ移転しましたが、この教会は現在も主に英語で礼拝を行なっております。アングリカンの教会なので、礼拝の流れはオックスフォードやカリフォルニア州で通っていた教会と似ており、司祭である先生ともカリフォルニアの友人を通して繋がりがあるので馴染みを感じました。メンバーは沖縄、フィリピン、日本の内地、米国などからの出身者を含み、新人である私は皆様から色々と助けていただいております。今月は沖縄教区の創立記念礼拝に向けて聖歌隊は練習に励んでおりました。

 沖縄市に着いてから四日目には三年程前に初めて沖縄を訪れた時にお世話になった空手道場の練習に参加しました。オックスフォードへ越すまでカリフォルニアで通っていた道場と同じ流派の空手であり、久々に稽古に取り組むことができました。道場の先生と先輩には現在のアパートの大家さんに紹介していただき、自転車、ヘルメット、タイヤの空気入れまで貸していただいております。普段は米軍基地内外の子供から大人を含むメンバーが練習に参加しており、最近ではニューヨーク州やデンマークから先生を訪れた方もいらっしゃいました。先月、坂口財団の皆様とマインドフルネスと脳の活動についてオンライン議論をする機会をいただきましたが、空手の練習もマインドフルネスの実践になり得ると考えております。現在は10月と11月の演武などに向けて、練習に励んでおります。

 博士論文研究につきましては、人間–動物関係、特に保護犬猫について沖縄でフィールド調査を行なっております。先月はオンライン面接を通してTransfer of Status Assessmentをクリアし、Probationer Research StudentからDPhil Statusへ移転しました。査定を担当していただいた先生方からの役立つフィードバックのもと、まずは幅広くフィールドを探索し、後にフィールドサイトを絞っていく予定です。沖縄でフィールド調査を開始してから、米軍基地関連のアニマルシェルター、犬猫の販売をやめ、代わりに保護犬猫の譲渡イベントの場を提供するペットショップ、ペットの葬儀場、保護猫を飼育している保育園、いくつかの動物病院や保護団体の施設などに伺わせていただきました。沖縄市周辺で日々フィールド調査を行う中、色々な文化の交わりを目の当たりにし、日系米国人の人類学者として思い当たることがあります。これからは琉球犬を飼育する動物園、他県の施設を含む様々な保護団体や動物愛護センターなどを訪れようと思っております。

 来年の6月末までフィールド調査を行う予定ですが、これからも坂口財団の皆様やオックスフォード大学のクラスメイトや先生方、プロジェクトの協力者の方との交流を続けながら、精一杯研究生活に取り組んで参ろうと思います。充実したフィールド調査期を坂口財団様にご支援いただき誠にありがたく存じます。これからも何卒よろしくお願い申し上げます。


近所に住む「さくらねこ」


近所に住む「さくらねこ」です。 地域のTrap-Neuter/Spay-Return/Release (TNR) 活動のもと、野良猫に不妊手術とワクチン接種を施し、印として耳が桜の花びらの形になるように切り込みを入れます。