奨学生 レポート

日本人奨学生の顔写真

茶山 健太
2020~2023年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 地理環境学部

食から見る私のオックスフォード留学生活

 イギリスといえば食べ物がおいしくない、そんなイメージがあるように思います。実際私も初めてイギリスに来た時には、そのイメージに囚われどんな食事が出てくるのだろうかと非常に身構えていたのを覚えています。留学をする上で食生活の質はやはり大きな問題で、かの夏目漱石もイギリス留学中に非常に苦労したというような逸話も残っているようです。そこで今回は、イギリスそしてUAE、オマーンという、あまり食文化のイメージがつきにくい国々で博士生活を送ってきた私の経験について少し話させていただければと思います。

1. イギリス

 学部生時代をアメリカで過ごし、学部三年の際に交換留学生としてオックスフォードに初めてやって来た私にとって、イギリスの食事は正直なところ、グレードアップと言って良いものでした。アメリカのバージニア州のど田舎にあった私の学部時代の大学は、食堂も一つしかなく、周りのレストランの種類も本当に少ない環境であったため、本当に食環境として恵まれていませんでした。そのため、各カレッジや、学部、そして一部の学術センターに特色のある食堂があり、レストランもインド料理、中東料理、中華などがありバラエティに富んだ食事ができるオックスフォードの環境は非常に喜ばしいものでした。(しかし、日本食だけは、本当に美味しいレストランがなく、残念なところです。)食堂自体も、ハリー・ポッターの映画にて、ホグワーツの食堂のモデルになっていた場所もあるほどで、非常に綺麗で、初めの方は毎回ウキウキ気分で食堂に向かっていました。ただ、問題点としては、大学の食堂であっても、かなり値段が張るということです。私の所属しているセント・エドモンド・ホールは特に食事が美味しいと評判で、実際味も良いのですが、カレッジで昼ご飯を食べるだけで、6ポンド(現在のレートだと約1000円)近くかかってしまい、東京のレストランで食べる昼ご飯とほぼ値段が変わらないレベルです。そのため私は基本的に自炊をし、昼ご飯もお弁当を持って行っています。
オックスフォードの食文化のもう一つの大きな文化は、フォーマル・ディナーと呼ばれる食堂で食べるコース料理の夕食です。ガウンを着た生徒が長いテーブルを囲みワインと共に食事する姿は、世界でもオックスフォードもしくはケンブリッジなど少数の大学でしか見ることができない、かなり変わった光景です。フォーマル・ディナーの値段と頻度はカレッジによって本当にまちまちで、毎日行われ、値段も10ポンド弱ぐらいのカレッジもあれば、25−30ポンド値段がするカレッジもあり、カレッジによって非常に大きな差があります。

オックスフォードのフォーマルディナーでの一枚

写真1. オックスフォードのフォーマルディナーでの一枚。シャンパングラスに入ったおしゃれなデザートです。

 少し食の話からは脱線しますが、このカレッジごとの差というのはオックスフォードの大きな難点で、一度入ったカレッジからは基本的に変更ができないのにも関わらず、生活面だけでなく資金的な面で大きな差が生まれてしまいます。かなり資金が潤沢なところは、奨学金などが充実して、スポーツの設備もジムからテニス・コート、用具の貸し出しまで非常に整っているのに対し、お金がないカレッジはほぼ全てを個人負担しなければならず、食事も高いなど、待遇の差が非常に目立ちます。入学する際にカレッジの希望は聞かれるのですが、どのカレッジに一番お金があるのか、そしてカレッジごとにそこまで違いがあるのか、色々な情報が無いとこの希望表明はできるものでは無いため、名門校などオックスフォードに関する情報が多い環境から来たものでなければ分からない部分が多く、隠れた格差を生み出しているように感じています。

2. UAE

 格差の話をするとなると、UAEでの経験は非常に大きな衝撃でした。UAEは、サービス業や、建設業など、俗にブルー・コラーと呼ばれる職種の大部分を南アジアなどからの移民が担っている国で、所得的にも、彼らと、現地人、そして金融業界などに勤めるホワイト・コラーの職種に就いている移民との間には大きな隔たりがあります。この影響は、食にも大きく表れており、南アジア(インド・パキスタン料理)や東南アジア(フィリピン料理など)系のレストランと、欧米系のレストランには、値段にかなり大きな違いが見られます。前者は日本で食べる価格よりも安く食べられるのに対し、後者は、綺麗なカフェで、コーヒーとケーキをいただくだけで、2000円近くかかってしまう程です。また、UAE特有の料理というものはあまり食べる機会が無い、非常に不思議な環境です。料理のクオリティーとしては、レバント地方(ヨルダンやシリアなど)、そして南アジア系の料理は、移民として現地の方々がやっているお店が多く、安く非常に美味しいものが食べられるのですが、欧米料理となると、イスラム圏である影響もあり酒類、そして豚肉が使えないため、ワインや日本酒などが料理に使われることに慣れている我々からすると、いまいちもの足りなく思ってしまうことが多くありました。また、非常に国全体としておしゃれなカフェが流行っているようで、値段は高いのですが、非常に美味しいコーヒーとケーキを頂ける場所が多くあり、気分転換が必要な際には立ち寄って、値段に目を瞑りながら食事をしていました。

UAEのおしゃれなカフェのケーキ

写真2. UAEのおしゃれなカフェのケーキ。とても美味しいのですが、これで1000円以上してしまうのが玉に瑕です。

3. オマーン

 オマーンの食事情は、移民の多さも相まって、UAEとよく似ている部分があります。しかし、オマーンは16世紀ごろから、オマーン帝国として香辛料貿易などを通じて、独自の文化を創り上げた歴史があるため、オマーン料理として特色のあるものがいくつか存在しています。一番代表的なのは、羊肉を香辛料と共に専用の窯でグリルしたシュワと呼ばれるものと、柔らかめのういろうのような食感が特徴の、カルダモンなどのスパイスが効いたスイーツ、ハルワ・オマニーヤが挙げられるでしょう。基本的に飲酒が許されていない文化なため、このハルワ・オマニーヤとコーヒーを出すのが客人をもてなす上で欠かせないものとなっており、私もコーヒーと共に現地の方々と多くのミーティングをさせていただきました。また、オマーンは海岸に都市が集中していることもあり、砂漠の国という印象とは程遠く感じられるほど、多くの魚介類を食べます。マグロや鰹のような日本でもお馴染みのだけでなく、サメやキング・フィッシュと呼ばれる魚など、割と珍しい魚種も多いのですが、新鮮で美味しい魚が食べられ、私としては非常にありがたかったです。イギリスは、島国であるのにも関わらずなかなか美味しい魚介類が食べられない環境であるため、安く美味しい魚を食べることが出来て感激でした。ただ、料理のバラエティーはあまり多くなく、語学学校で2ヶ月滞在した際の最後の方には、もう少し違うものが食べたいと感じてしまったのも事実です。

オマーンにて、ラマダンの断食明けのイフタールと呼ばれる夕飯のメニュー

写真3. オマーンにて、ラマダンの断食明けのイフタールと呼ばれる夕飯のメニュー。伝統的には、ラバンという塩の入ったヨーグルト飲料をお供に手を使って食べます。


 本稿では、食べ物を通じて、私の博士課程の生活の割とカジュアルな面を振り返させていただきました。以前に菜食主義の話をした際にも話させていただいたとおり、食べることへの興味が人一倍ある私にとって、異なる様々な国での食生活は、非常に楽しみなことである一方で、ストレスになってしまうこともあるという、諸刃の剣のような存在だと感じています、最初のうちは良くても、段々と辛くなってきてしまうこともあり、結局は自炊をすることが一番確実であるという結論に至っているのが実情です。幸いなことに私は割と料理が好きなので困ってはいないのですが、食事は日本が一番だというのは8年海外に住んでいても強く思ってしまいます。美味しい寿司とラーメンが恋しいなと思う今この頃ですが、各地のそれぞれの良さを堪能して、恋しさを紛らわせていこうと考える次第です。