奨学生 レポート

日本人奨学生の顔写真

波多野 綾子
2022年度~2024年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 法学部

 2022年度は、学問の厳しさと楽しさの滝に打たれつつ、日々限界に挑戦する日々の中、学問的にも個人的にも成長することができた素晴らしい年でした。このような機会を与えてくださった財団と、一年を通してサポートしてくれた奨学生仲間に感謝しています。本レポートは、この1年間の奨学生としての経験を振り返るために、①英国・オックスフォードでの生活で学んだことおよび、②奨学金期間中の自身の業績と将来の計画に焦点を当てたものの2点について報告させていただきます。

①英国生活は歴史の中に

 Sub fusc(試験や入学式の際、アカデミック・ガウンを着用・角帽をかぶります。スカートやズボン、シャツの色なども定められています)やMatriculation(オックスフォードの一員となるための入学式、一生に一回)とは何かもわからず飛び込んだオックスフォードでは、大学独自の伝統に加え、華やかな王朝イメージの裏側にある英国の血と闘争にまみれた政争の歴史、その中での女性や労働者、多様なマイノリティの権利獲得の運動の歴史などについても学ぶことができました。オックスフォード大学も、以前より有色人種の学生の割合が増えていると言われています。しかし、やはり現在も、白人の上中流階級が学生や教授の多数を占めており、非白人(特に黒人)学生や教員の少なさは顕著、非白人に対するレイシズムも根強いようです。例えば、先日、“Help end everyday racism at Oxford”と題したイベントが行われましたが(YouTubeで視聴できるようです https://www.youtube.com/watch?v=zBdvrsvvOxY&ab_channel=Sa%C3%AFdBusinessSchool%2CUniversityofOxford)、アジア系の女性であるオックスフォードの法学部長は、カレッジの前で学生と話していたところ、観光客に「伝統的なオックスフォードの写真を取りたいからどいてくれないか」と言われたエピソードや、ポーターに何度も学外者と間違われた経験をシェアしていました。オックスフォード大学で女性が受け入れられたのも19世紀末になってからで、当初は図書館の利用も許されず(男子学生の気が散るという理由)、学位も取れないという扱いであったとのことです。現在こそ女性の割合が半数以上を占めるオックスフォードですが、このようなオックスフォード大学にまつわるジェンダーやエスニシティに係わる様々な歴史や現状を学ぶ中で、今自分が立っている場所、得られている恩恵がいかに多くの人々の努力や運動の歴史の上に成り立っているかを日々実感しております。

留学中の写真


 また、要人含めオックスフォード大学には様々な人が訪れます。私もマララ・ユスフザイさんの講演会にいこうと2時間前から列に並びましたが会場に入れず、オックスフォード・ユニオンのバーでライブ・ビューイングを楽しむことになりました(マララさんは我がレディ・マーガレット・ホール(LMH)の卒業生でもあります!)。また、初夏には多くオックスフォード名物?の舞踏会(ボール)が開催され、LMHでもサーカスをテーマにしたボールが開催されました。カレッジ中にミュージシャンが歌うテントや観覧車が設置され、食べ物のブースがひしめき合い、私を含めて参加した学生は多いに盛り上がりました。LMHボールの翌日5月1日には、May Dayというオックスフォード独自の伝統的な行事がありました。Magdalenカレッジのタワーの上から、名高い聖歌隊が早朝の6時に高らかに歌い、その後街のあちこちで、モリス・ダンスというダンスが踊られます。私は寝坊をして聖歌隊の歌は逃してしまったので、今年はボールの後徹夜で聖歌隊を待とうかと考えています。


②留学中の実績と今後の計画

 2022年4月から同年9月の半期における学術その他の活動の報告については、半期報告で触れさせていただいたので、2022年10月~2023年2月の活動と今後の計画について報告させていただきます。

 2022年夏にトランスファーを無事に終え、正式な博士候補生となることができたため、2022年10月からは論文の第2章の執筆にとりかかりました。第3章以降のケーススタディに取り組むため、日本の法制度の特徴などを国際人権法との関係でまとめる章ですが、先行文献を読めば読むほどどんどん知識や興味が深まり、まとめの作業には予想以上に時間を費やしてしまいました。12月に第1稿を提出、教授のコメントを受け、2月に修正の上提出した論文草稿は指導教員の好評価を得て、次の章へと進むことになりました。

 また、ボナヴェロ人権研究所(Bonavero Institute of Human Rights)での常駐研究生として研究を行いながら、オックスフォードビジネスと人権ネットワーク・議論グループ(Oxford Business and Human Rights Network & Discussion Group)の主催者として、勉強会やイベントを開催しています。中でも、2月に開催した、アフリカにおけるビジネスと人権に関する法と実践をテーマにした書籍の出版記念イベントでは、アフリカ各国の学者や実務家および世界中からの参加を得て、ビジネスと人権の未来について非常に活発なやりとりができました。

 さらに、2023年1月よりオックスフォードの国際公法リサーチグループのリサーチアシスタントとなり、同じ博士課程学生らが研究内容をシェアするリサーチセミナーや国際公法分野のエキスパートを学外から招いてディスカッションイベントを開催しています。様々な分野の研究者や専門家の最新の研究を知り、議論を交わすことができることは自身の研究においても大変大きな刺激になっています。

留学中の写真


 また、12月上旬にはベトナム・ハノイでのアジア法社会学の若手ワークショップ・会議で発表を行い、1月には、ハーバード大学と南アフリカのステレンボッシュ大学が共催するワークショップに参加してきました。このような学外の活動を通じて、自身の研究に対するフィードバックをいただくとともに、他の研究者からも多くを学ばせていただきました。また、世界各国から集まった、それぞれにユニークな経験やストーリーを持つ人々と出会い、飲食をともにする機会を得るなかで、より多様な世界観を学び、個人的にも研究面でも成長することができていると感じています。

 将来の具体的な計画はまだ構想中ですが、まずは目の前の博士課程の研究に全力を注ぎ、博士号を取得し、実務経験もある研究者として、実務と学問の架橋に貢献したいと考えています。また、研究およびそれ以外の活動も通じて、人権と国際法に関する教育、グローバルな文化交流と理解を促進し続けたいと考えています。最後に、このような人生を変えるような機会を与えてくださった坂口国際育英奨学財団の皆様、ご支援をくださっている皆様、そして本レポートを読んでくださった皆様に心から感謝の意を表したいと思います。