奨学生 レポート

外国人奨学生の顔写真

曽我 英子
2021~2022年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 芸術学部

①オックスフォード大学のフェミニスト達

 博士課程を開始して早々に、とても印象的だったことがあります。それは博士課程に在学している女性達の意見を述べる姿が、いつどの様な場でも堂々としていることです。イギリスで生活をしていると、あらゆる性別の人々がフェミニズムを支持しているという事実は当たり前の光景になってきた感覚があります。特にオックスフォードの生活の中で、常に周りに優しく、気配りを忘れないことを大切なマナーとしている女性達(生徒、教授問わず)に出会えたことは私にとってとても大きな財産です。彼女達は競争社会の中で大きなプレッシャーに立ち向かいながらも、日々自身の研究や学び、そして自分自身をも高めていくことに集中していました。その様な女性達(LGBTQIA+の人々を含め)の研究内容やアプローチはとても斬新で興味深く私にとってとても刺激的な体験でした。

 長い学術の歴史上、男性研究者達が眼に留めてこなかった事柄を女性視点から見ることで自分達に出来ること、より良い社会を築くために何が出来るのか探求している姿はとても頼もしく、大きな影響を受けました。
これらの体験は坂口財団代表の蜂谷さんが女性であった事、蜂谷さんの社会と繋がるお考えやご姿勢に加えて、坂口財団奨学生の助成を希望する私の気持ちを更に強いものにしました。自分の意見をはっきりと述べることは、私にとって容易ではないと実感する場面が多々あります。また、オックスフォード大学での自己主張をする「常識」は外では良くも悪くも通用しなくなる場面があるという理解も得ることが出来ました。しかし「女性らしい・らしくない」といった既存の価値観や考え方に捉われずに、社会の偏見やプレッシャーをものともせず周りへの優しさを忘れない、強く凛としている女性達の姿はこれからも私のインスピレーションとなり活力となっていくと感じています。
どの様なバックグラウンドやアイデンティティーを持っていたとしても、自分らしく意見を持ち、のびのびと研究や勉学、仕事が出来るという環境は多種多様な文化への理解や知識を深め、社会で起きる摩擦や複雑な問題へも対処しうる、豊かな社会環境づくりへの架け橋となるという事をオックスフォードでの生活を経て実感しています。


②奨学生期間中にできたこと・将来計画

 博士課程の期間中、北海道様似町に住むアイヌ女性の熊谷カネさんから四季折々の様似アイヌ料理を学びました。その活動を通して、人間の身体感覚から得られる知識や経験が自然界の生き物達とどの様な関係性を築き、文化として発展しているのかを探求しました。

 自然環境破壊の危機に直面する現代社会ですが、多くの人々が当たり前としてきた資本主義、男性主義社会、国家主義等がどの様に人と自然の調和関係を壊してきたのか、様似での体験を通して見えてきました。アイヌの人々が北海道の植民地化を経て苦悩な環境に追いやられてきた歴史の影響は今でも色濃く残っています。不平等な社会環境の中で、多文化共生という言葉は簡単に使えるものではないという事を日々感じました。

 それでも人々が何かを体験し感じ、共有することは、ある種の差別的価値観を飛び越えることがあります。例えば美しい色や味、香りを楽しみながら美味しい料理を囲むことは人々を容易に繋ぐことが出来ます。また私が学んだ熊谷カネさんの様似アイヌ料理は近所の山からは山菜を、海からは海藻を頂くので、自然や人々との結びつきが強く、それらはその土地の自然環境や歴史、文化を更に色濃く食事等に反映していました。私は様似の人々と寄り添いながらその様な体験や学びを得、自身の作品を映像として上映したりカンファレンスで研究発表してきました。また、どの様な人々も気軽に立ち入れる場所としてポッドキャストやYouTubebビデオでの配信も試みています。

 博士課程終了と同時期から、キングストン大学・キングストンスクールオブアートにてBA Fine Artの大学講師として働く事になりました。今後は博士課程での学びと経験を活かして、アート&エコロジー(アーティスト目線で自然・社会環境の改善に関与)の研究と活動を発展していきます。アーティストとしての活動だけでなく、研究者という立場でアイヌ文化に関わってきましたので、どのように熊谷カネさんから受け継いだ知恵や情報を形にするのか、悩んできました。

 それでも、私が出会ったアイヌのおばあさん達から学んだ「どの様な状況でも笑顔でいること・仲間達と一緒に楽しいという気持ちを大切にすること」、その教えを心に留めながら今後も精進していこうと思います。

 最後に、坂口財団の皆さまをはじめ、私の研究を応援してくださった方々にこの場をお借りして感謝を申し上げます。今まで研究活動を継続することができたのは、皆様のおかげです。

坂口財団の皆様には今後も良い報告をさせて頂けるよう、研究・教育活動に精一杯従事していきたいと思っています。お世話になった多くの方々に心からの感謝の気持ちを込めてこの最終報告を締め括らせて頂きたいと思います。どうも有り難うございました。