陳 露文(チン ロブン)
中国出身/2024~2025年度奨学生
日本女子大学 人間社会研究科 博士後期課程
博士課程に在籍している留学生に必要なのは何か
最近、将来のことについて深く悩むようになった。博士課程の先輩や同期に話を聞いてみると、意外にも同じような不安を抱えている人が多いことがわかった。満期が近づいてきているものの、卒業後の進路が全く見えない状況に焦りを感じている人が多い。数年間研究に専念しても、卒業自体が難しい上に、研究職に就く道は狭く、アカデミアでのポストを得るのは極めて厳しい現状がある。
さらに、アラサーという年齢で企業への就職を考えたとしても、社会人経験がほとんどない履歴では思うような職を見つけるのが難しい。そして何よりも深刻なのは、ビザの問題だ。日本人と違い、就学や就職が途切れた場合、多くの留学生は帰国せざるを得ない状況に追い込まれる。こうした背景から、「博士課程に進学したことを後悔している」「早めに退学しておけばよかった」という声をよく耳にするようになった。
こうした経験を通じて、留学生が日本で博士後期課程に進学することの困難について改めて考えさせられた。そして、私が最も深刻だと感じたのは、コミュニティの狭さという問題である。
留学生の多くは、血縁や地縁を離れ、一人で日本に来ている。昔の友人はともかく、日本で友人を作ったとしても、その繋がりは次第に希薄になっていく。私は日本語学校に在籍していた頃は、学業の負担が軽く、日本での生活に新鮮さを感じていたため、日中交流会やイベントに積極的に参加し、日本人の友人を多く作ることができた。しかし、修士課程や博士課程に進むと、学業の負担が格段に増し、毎週の文献購読や発表の準備だけで精一杯になる。忙しさのあまり、新しい友人を作る時間やエネルギーはほとんど残されていない。一週間の疲れが溜まると、結局は自分をよく理解してくれる親しい友人にしか会いたくなくなるのだ。
この状況で問題となるのは、親密な人間関係に依存しすぎると、得られる情報が限られることだ。次第に自分の世界が狭くなり、以下のような重要な情報にアクセスできなくなる。たとえば、日本社会で今何が起こっているのか、将来自分が何をしたいのか、同じ境遇の人たちがどのようにキャリアを切り開いているのか、似たような状況の先輩たちがどんな選択をしたのか。こうした情報が耳に入らないため、視野が狭まり、適切な判断が難しくなる。
特に深刻なのが、ビザの問題である。多くの留学生にとって、ビザの維持は最優先事項だ。そのため、進路についてじっくり考える余裕もなく、「とりあえず留年してビザを延長しよう」といった短期的な選択をせざるを得ない。結果として、就職活動のタイミングを逃してしまい、気づけば選択肢がほとんど残されていない状況に追い込まれることも珍しくない。
留学生が日本で博士課程に進学することは、学問的な挑戦だけでなく、文化的・経済的・社会的な困難との闘いでもある。こうした状況を改善するには、情報共有の場が非常に重要である。今の留学生支援をやってくださっている多くの団体では、その支援を単なる国籍の異なる人々を同じ場にいられるようにしているが、おそらく留学生たち、特に博士課程の留学生により必要なのは、国籍を問わず、同じ立場になっている人のコミュニケーションなのではないかと考えられている。
留学生が抱える困難を乗り越えられるような環境が整えば、博士課程での経験は個人の成長やキャリア形成にとって大きな財産となるだろう。
1人で家で研究するときにいつもそばにいてくれるのが猫だけ