奨学生 レポート

外国人奨学生の顔写真

胡 佳融(フジャロン)
中国出身/2023~2024年度奨学生
上智大学 地球環境学研究科 博士後期課程

4年ぶり故郷へ

 11月上旬、研究室の指導教官やメンバーたちの5人と共に、国際学会に出席するために故郷である上海に帰りました。前回の帰国から4年近くが経ち、新型コロナウイルス感染症の大流行の影響もあり、上海の変化に驚きを感じました。4年前と比較すると、特に今回の上海は自然な「緑色」が増えただけでなく、SDGs・持続可能な暮らしに関する「緑色上海」も流行っていることがわかりました。ここで、久しぶりの上海市民として、滞在中に観察した「緑色上海」を代表するSDGs取り組みの一例を紹介させていただきたいと思います。

 家に着いた最初の日、長年住んでいる「小区(シャオク)1」内のごみ箱がすべてなくなっていることに驚きました。その代わりに、小区の中に4つの新しいごみ収集ステーションが新設されたようです。その理由として、中国で初めてごみ分別を導入した都市である上海は、環境保護と資源再利用の促進を目的に2019年の夏に新しい制度が導入され、市民には家庭から出るごみを分別して毎日指定される時間帯に投棄するよう求められ、ごみ分別の「義務化時代」に入りました。上海のごみ分別は一般的に、「可回收物(リサイクル可能なもの)」、「有害垃圾(有害ごみ)」、「湿垃圾(キッチンごみ)」「干垃圾(その他のごみ)」の四つのカテゴリに分かれています。住民のごみ分別を容易にするため、ごみの種類ごとに、収集ステーションで色のついたごみ箱が用意されています(可回收物=青色、有害垃圾=赤色、湿垃圾=茶色、干垃圾=黒色)(図1)。

1中国の「小区(シャオク)」は、都市や田舎の住宅地域であり、通常、隣接するアパート・マンション、または連棟住宅からなる。これらの住宅エリアは、比較的閉鎖的で安全、便利な生活環境を提供することを目的としている。上海の小区で、以前は、アパート・マンションの入り口にごみ箱が配置され、住民はいつでも好きなときにごみを捨てることができた。


澄んだ湘南の海

図1 上海のごみ収集ステーション


 また、リサイクル可能なものはごみ箱に捨てるだけでなく、集めて指定される緑色のスマートリサイクルボックスに持ち込み、1kgあたり0.8人民元(約16日本円)のポイントと交換することもできます(図2)。

澄んだ湘南の海

図2 スマートリサイクルボックス


 初めての取り組みであるため、分別の難易度や理解度に関する課題もありました。新しい制度に順応するまでに時間がかかることや、適切な分別方法についての情報が不足していることが、一部の市民からのフィードバックとして挙げられました。7年前に私が初めて日本に留学したとき、日本のごみ分別の複雑さに戸惑ったことを思い出しました。しかし、上海では、電車内で住民のごみ分別の役割の説明、バス停でごみ分別方法についての広報からごみ分別検索アプリの開発、ボランティアさんがごみ収集ステーションでの現場指導まで市民のごみ分別を支援するサポートが多様化していました。4年間が経ち、多くの市民は、上海のごみ分別制度を好意的に受け入れ、基本的にごみを正確に分別できるようになりました。制度の導入により、環境への意識が高まり、資源の有効活用が進んでいます。市民は家庭から発生するごみを分別し、リサイクル可能な資源を再利用することで、環境・持続可能な社会への貢献を感じています。

 環境学を専攻し、サステナブル行動を研究テーマにしている私にとって、ごみ分別は分別先進国である日本へ留学することを決めたきっかけの一つです。一言で言えば、今回、故郷である上海でも日本のようにごみ分別が始まっていることを知り、身の回りのことを観察し、一歩一歩の動きで持続可能な社会・暮らしに貢献していることを実感し、大変嬉しく思っています。

【番外編】

 「胡さん、お久しぶりです。もしかして、胡さんも上海でXX学会に参加しているのですか?もしそうなら、明日、会場で会って話し合いましょうか。ぜひ、私の研究室のことを紹介させていただきたいと思いますよ。  張XXより」
 偶然にも学会最終日の前夜、10年以上会っていなかった小学校時代の同級生だった張さんからのメールが届き、大変驚きました。張さんは現在、上海の大学で環境学専攻の博士後期課程に在籍し、サステナブル行動について研究しているとのことで、私の研究テーマとよく似ています。彼は英語の文献を探しているときに、しばらく前の私が国際誌に掲載された論文を偶然見つけ、今回学会の要旨集に私の名前もあるのを見て連絡してきました。さらに偶然なことに、張さんの指導教官(M教授)は環境行動学、ごみ分別などの分野で高く評価され、上海市から「白玉蘭栄誉奨2」も受賞した有名な外国人学者であります。M教授のチームは上海で10年にわたる現地調査を実施し、1,000以上の小区を訪問して住民の意見を聞き、ごみ分別と収集施設・設備の改善と合理化、住民のごみ分別の役割に対する認識、ボランティア同士の友好的な当番制という3つのポイントが住民の分別行動を促進する要因であることをまとめ、最終的には上海市政府に報告書を提出し、2019年にごみ分別に関する新政策を推進・実施するのを支援しました。そして、学会の最終日、研究室の指導教官と私は、新聞や論文でしか見たことのなかったM教授と彼女のごみ分別研究チームを張さんから紹介されました。私たちは日本と上海のごみ分別制度を議論し、今後、日中共同研究ができることについても話し合いました。

2白玉蘭奨(中国語: 白玉兰奖)は、上海市の社会的・経済的発展、文化交流に突出した貢献のあった外国人の専門家や学者、企業経営者を称えるため、上海市が市在住の外国人に授与する賞である。賞は「白玉蘭記念奨」と、また特に貢献度の高い外国人に授与する「白玉蘭栄誉奨」からなる。 受賞者には上海市政府外事弁公室からメダルと賞状が与えられ、メダルの表面には白玉蘭が記されている。


 今回、新型コロナウイルス感染症の収束後、初の国際学会への現地参加ということで、それまでGoogle Scholar3でしか知らなかった多くの研究者に出会い、特に偶然再会した小学校の同級生の紹介で、自分の研究分野のトップ研究者やチームと交流・コラボすることができたのは、今でも夢のようであり、今までの人生で一番特別な思い出となっています。また、私が日本での研究成果や経験を国際学会で様々な国の研究者と共有し、SDGsやサステナブル行動に関する研究を架け橋に日本と海外の友好を促進することもできると強く信じています。

3Google Scholar(グーグルスカラー)は、Googleが提供する無料の論文検索エンジンである。学術用途での検索を対象としており、論文、学術誌、出版物の全文やメタデータにアクセスできる。