
松宮 陽輔
2023~2025年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 医学部
「不安世代」:The Anxious Generation
近年、メンタルヘルス問題が世界的に深刻化しています。私は医学生の後期当時から他の学生や医師に授業や講義を行っていますが、最近集中力の低下や精神的な不調を訴える学生が増えていると感じます。オックスフォードの医学生に勉強のプレッシャーを与えると「メンタルヘルスに悪い」と反発された経験もあります。教師である妻や他の大学講師も同じ事が気になって、データを調べるとうつ病や不安障害の増加が明らかに示されています。
図1:アメリカの学部生のメンタルヘルスのデータ
この現象は、ジョナサン・ハイトの著書『The Anxious Generation(不安世代)』でも詳しく分析されていまる。ハイトは、2010年以降のスマートフォンとSNSの急速な普及が、子どもたちの「遊び中心の子ども時代」を「スマホ中心の子ども時代」へと変化させ、精神的な脆弱性を生んだと主張しています。
図2:友達と過ごす時間の減少
図3:アメリカでの一般家庭の電化製品の変化
ハイトは、若者のメンタルヘルス悪化の原因として4つの点を挙げています:
社会的孤立:対面での交流が減り、孤独感が増す。
睡眠不足:夜遅くまでスマホを使うことで睡眠が妨げられる。
注意力の分散:通知やスクロールによって集中力が奪われる。
依存症:SNSやゲームに過度に依存する傾向。
図4:世代によって、平均して一日にSNSを利用する時間
では、この問題にどう向き合えばよいのか。ハイトは以下のような対策を提案しています:
学校でのスマホ使用を禁止して、SNSの使用年齢を引き上げる(ハイトは16歳以上を推奨)
対面での交流を増やす
自由時間や趣味の時間を確保する
睡眠を重視し、寝室にスマホを持ち込まない
子どもにもっと自律的な遊びの機会を与える
これは教育現場での対応だけでなく、家庭や社会の協力が必要です。私も寝る前はできるだけスマホやパソコンを見ないで、寝室にはスマホを置かないように努力しています。
残念ながら『The Anxious Generation(不安世代)』は日本語に翻訳されていませんが、英文でのデータや概要は下記のリンクで閲覧できます:https://www.anxiousgeneration.com/research/the-evidence
「ON2025」でもこのテーマを発表したあと、奨学生の藤田さんと高橋さんと対面で会って、とても有意義な時間を過ごしました。
