奨学生 レポート

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花岡 成有
2025~2027年度奨学生
オックスフォード大学 博士課程 政治国際関係学部

 坂口国際育英奨学財団の日本人奨学生としてオックスフォード大学政治国際関係学部の政治学博士課程に在籍中の花岡成有と申します。2024年に博士課程に進学し、2025年4月より奨学生としてご支援をいただきながら、研究を行なっています。

研究について

 私はこの政治国際関係学部で、アフリカ政治を研究しています。具体的には、修士課程まで研究を行なってきた西アフリカ諸国に着目し、特に2000年代までに内戦を経験した紛争経験国において、内戦後の政治エリートがどのように変容しているのかを研究しています。これら紛争経験国においては、内戦終結後に新たな社会的属性を持つ政治エリートが台頭している国もありますが、一方で社会的属性にほとんど変化が見られない紛争経験国も存在します。政治エリートに大きな変化が起きている国と、ほとんど変化が見られない国が存在するのはなぜなのか。これはどのような社会経済的変化に起因するものなのか。この問いは、アフリカにおける政治的エリートの特徴に関する相反する言説とリンクしたものでもあります。近年アフリカでは裕福なビジネス界出身者が大量に政治進出しているとする研究もあれば、アフリカにおける旧来のエリートの強い残存性を指摘する研究も多く存在します。博士論文ではこうしたパズルを掘り下げたいと考えています。現在はコースワークを終了し、2名の指導教官からの論文指導を受けながら、翌年初めに予定している現地でのフィールドワークに向けた準備を行なっています。

ケンブリッジからオックスフォードへ

 実は、修士課程は同じイギリスのケンブリッジ大学の政治国際関係学部で学んでおり、イギリスへの留学は2度目となります。オックスブリッジとも総称される両大学は、カレッジ制をはじめシステムがよく似ていると感じる部分が多くありますが、街や学部の様子については、少々異なっていると感じる部分もあります。特に興味深いのは、両大学の政治国際関係学部の様子です。ケンブリッジは政治学と国際関係論でコースが分かれておらず、修士課程は1学年70名前後の大所帯であるのに対し、博士課程は1学年10名程度と非常に少数になります。比較政治学の分野においては比較的質的な研究手法をとる学生や教員が多く、さまざまな教員が自身の研究分野に関する各論的なモジュールを多く設けていることも特徴的だと思います。一方、博士課程で進学したオックスフォードの政治国際関係学部では、修士課程では4つ、博士課程では政治学・国際関係論の2つのサブフィールドにコースが分かれています。博士課程の人数は政治学、国際関係論合計で1学年45名近くと規模が大きく、ケンブリッジに比べると比較政治の分野では量的なアプローチがより主流となる印象です。また、オックスフォードの修士課程から直接博士課程に上がってくる学生が多く、修士課程をオックスフォード以外で修了した人は少数派です。このような違いから、2つの学部が掲げる教育や学部運営の方針が見えてくる気がします。

坂口財団日本人奨学生になって:IQMRへの参加

 オックスフォードでの非常に充実した環境での研究は、坂口財団の皆様をはじめとする方々のご支援があって初めて可能になったことでした。特に、財団のご支援をいただくことによって、留学中に取り組める活動に幅が広がり、今年度はアメリカ・ニューヨーク州での政治学の方法論に関するプログラム、そしてポルトガル・リスボンでのアフリカ研究のサマープログラムに参加し、研究を進める上で貴重なスキルアップや研究仲間との出会いの機会を得ることができました。特に、ニューヨーク州シラキュース大学で行われたInstitute for Qualitative and Multi-Method Research (IQMR)と呼ばれるプログラムに参加できたことは、博士課程1年目のハイライトとなりました。このプログラムは、20年以上続く、政治学の中でも質的な研究に関するプログラムの中では最もよく知られたものです。質的研究の著名な研究者の多くが様々なモジュールを開講し、またこのプログラムの参加者からも第一線で活躍する研究者の多くが輩出されており、進学前から参加を希望していたプログラムでした。オックスフォードでは政治学博士課程から1名、国際関係論博士課程から1名を毎年選考して派遣しており、幸いなことに今年本プログラムへの参加の機会を得ることができました。現在所属する政治国際関係学部では、質的なアプローチを比較政治でとる博士課程生は多くなく、その中でアフリカ地域を専攻する人はさらに少ないのが現状です。そうした中でこのプログラムに参加できたことは、自身の視座とネットワークを広げる上で非常に有用だったと感じています。

 今後の定期報告では、現地での生活やフィールドでの様子などについてもご報告できればと考えております。引き続き学位取得に向け研究に励みたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【写真:IQMR修了式にて】

【写真:IQMR修了式にて】