奨学生 レポート

外国人奨学生の顔写真

柳 東弦(リュウ ドンヒョン)
韓国出身/2021~2022年度奨学生
筑波大学 人間総合科学学術院 博士課程修了

日韓関係における剣道の現状と今後の課題

 日韓関係は、政治的な問題により悪化と改善を繰り返してきたが、その背景の一つには歴史的背景(日本植民地時代)が存在している。日本植民地時代とは、1910年から1945年まで日本が朝鮮半島を植民地政策をもとに統治した時期であり、その歴史的背景をめぐる論争は政治的側面とともに、ひいては日韓剣道界にも影響を及ぼしている。

日韓剣道界の歴史

 筆者が剣道選手として活動し、日本との交流を行う中で、日韓剣道界は剣道の規則、理念などをめぐり、それぞれ異なる経緯で発展してきたことを認識した。例えば、剣道試合は国際剣道連盟のルールに基づいて三人制審判(主審1名、副審2名)で行われるが、韓国では審判の誤審防止を目的として、五人制審判(主審1名、副審4名)やビデオ判定制度が導入されていた。しかしながら、特に、ビデオ判定制度はより正確な判定をする上で有効である一方、剣道の本質(気剣体の一致、人間形成の道)から外れるとの理由で批判的な意見も存在した。また英語の表記においては日本は「KENDO」、韓国は「KUMDO」とされており、これに伴い、全日本剣道連盟は「ALL JAPAN KENDO FEDERATION」、大韓剣道会は「KOREA KUMDO ASSOCIATION」と表記されている。さらに、韓国の昇段審査では、国際剣道連盟が規定する共通科目(実技審査、日本剣道形、学科試験)を加え、韓国独自の古流剣法とされる「本国剣法」を取り入れた独自の審査方法を採用している。そして、剣道の国際化に関しても、固有な伝統と文化の保全を優先する日本と、市場拡大を優先したスポ-ツ化を推し進める韓国がそれぞれ異なる方向性を示している。このような剣道に対する考え方の相違が生じた一つの背景には、日本植民地時代の歴史的経緯が関係していると考えられる。

韓国で独自の剣道を普及

 戦後の日本では、GHQ(連合国軍総司令部)により剣道は軍事的訓練と認識され、一時的に全面禁止とされていた一方、韓国では1948年に創設された大韓剣士会(現在・大韓剣道会)を通して剣道の普及が図られていた。しかしながら、当時の韓国の歴史的背景を踏まえると、大戦直後の韓国社会では日本植民地時代への反感が根強く、剣道を普及・拡大することは困難であったと考えられる。またこの時期は朝鮮戦争(1950-1953年)の勃発とも重なっていた。このような時代的背景の中で、韓国で活動した剣道家らは、剣道の存続を図るために日本の色を薄めた独自の剣道を普及させる方向へと向かったと考えられる。

 上記のような状況下においても、日韓剣道界は剣道の普及・発展を目的で持続的な交流を通して未来志向的な関係を構築しており、剣道人口の拡大や次世代人材育成などに力を注いでいる。また2026年5月には第1回アジア・オセアニア剣道選手権大会が初開催されるなど、国際化が加速されている。

持続可能な継承と国際化の推進

 今後、剣道の持続可能な継承と国際化をより一層推進するためには、両国の歴史的背景とともに剣道に対する考え方(剣道の規則、理念等)を認識した上で、相互理解の促進が必要であると考えられる。